ここ熊本・天草は下浦地域。古くから石工とポンカンの里として知られるこの小さな町の小さな工房で、下浦土玩具は地元の皆の手によって作られています。パワープレイスが関わるこの町の活動をお届けします。
もともと、天草には「天草土人形」という、江戸時代から続く伝統工芸品があります。
今では、お土産屋さんに並んでいますが、かつては、乳飲み子を抱く「山姥」をマリア像に見立て、潜伏キリシタンが拝んでいたというように、くらしに密着したものでした。
この伝統を後世に残したいと、天草出身の元パワープレイスのデザイナーであり、現在武蔵野美術大学教授の若杉浩一氏が新しく作り始めようと企画したのが、この「下浦土玩具」です。
パワープレイスのデザイナーの下妻が意匠を考案し、サンプルを作成。地域おこしの仲間「しもうら弁天会」で作ろう!と決まったものの、誰が?どこで?どうやって?とわからないことだらけ。まず手始めに、年若い石工を中心に土人形保存会や陶芸家から作り方を学び、一から作り方を編み出していきました。
二年目からは、「しもうら弁天会」全員が製作に関わり、町の新たな文化の始まりにしようと取り組んでいます。
土玩具づくりは、まず粘土を型に流し込むところから始まります。粘土をドロドロに溶かし、型に流して少し待っていると、型に水分が吸い込まれ、粘土が定着していきます。乾いた分は粘土を継ぎ足します。これを四回行います。
同じ作業の繰り返しのように見えますが、毎日の気温や湿度、石膏型の乾燥具合によって、粘土の硬さや定着の仕方などが、いつも変わるのも面白いところ。粘土の具合を見ながら、少しずつ調整を重ねます。
粘土が型に定着してきたら、最後はしっかり乾かします。乾かす時間は天気によっても変わるので、作業は空模様とも相談です。乾いたら型から外し、継ぎ目をヘラで慣らしていきます。細かい作業になりますが、キレイな人形を届けるため、ひとつひとつ丁寧に行います。
こうしてできた土玩具をまたしばらく乾かし、ヤスリがけをして、窯で焼成します。
窯出しは少し不安ですが、無事に焼き上がった時は格別です。
さて、素焼きができたら、次は二回目の「ヤスリがけ」。
なめらかな風合いを生み出すために、大事に磨き上げます。
そして、命を吹き込む「絵付け」。白く下塗りした後、オリジナルの色も使いながら、筆で色をつけていきます。
なかなか誰でもできる作業ではないので、絵の得意な親父さんや若者なども加わって、描きこんでいきます。目の入れ方ひとつで顔つきが変わってしまうから、楽しみながらも真剣に作業します。このように、時間と愛情をたっぷり込めながら、毎日少しずつ作っています。
かつて賑わっていた下浦の目抜き通りは、今ではすっかり静かなところになっていましたが、そこに残されていた空き店舗を手作りで改装し、「しもうら弁天会」の事務所兼工房を作りました。小さな工房ですが、平日の午前中、定年退職後の仲間を中心に、少しずつ土玩具を作っています。
もともと店舗でしたから、ガラス戸越しに表から中が見えるようになっています。
毎日、人が集うようになると、お茶飲み話をする近所の人がきたり、魚屋が行商に来たりするようになり、だんだんと人が行き交うようになってきました。それもまた嬉しいことです。
めじろおし:メジロがギューギューと寄り集まる様に未来が賑々しくなりますように。
ひっぱりだこ:皆から引っぱりだこになるくらい、 愛されますように。
弁天さま:石切丁場に祀られている弁天様が皆の幸せを見守ってくれますように。
こうした縁起物として、皆様にお届けしています。
五十嶋 さやか ・ 下妻 賢司 ・ 倉内 慎介